リピート

「では、ここで大事なこと言っておここうか。人間っていうものは常になにか心の隙間を埋めてくれるものを求めているわけだよな。それは実はなんだっていいわけだが、ある人は破滅的な方向にいってしまうんだよ」哲夫は頷いて自分に言い聞かせるようにいう。洋子はその言葉に関心がないように窓の外を眺めている。空は鋼色の梅雨の雲が垂れ下がり、重苦しい色彩が不安を掻き立てている。東京のとあるカフェ。ここは都心から少し住宅街にさしかかったところにあり、さほど人どおりは多くない。店外に喫煙者用のテーブルが入口の横に並べられている。煙草の煙をくゆらせながらコーヒーカップに口を近づけている人、コーヒーはとっくに飲み終えて煙草を片手にぼんやり上体を傾けて行きかう人を眺めている人、のどかな休日の午後の一時の光景である。洋子は思い出したように口を開けた。「そういえば、洗濯物がほしっぱなしだった。はやく帰ってとりこまないと」「おい、待てよまだ話は途中だせ。君の親友の悩みをせっかく聞いてあげていたのにな」哲夫は口をとがらせ不満そうな口調だった。「その話また後で。ごめんね。気になっちゃうとどうしようもなくなっちゃうのよ」「わかったよ。確かに一雨きそうだな。」洋子は哲夫にこの件を話すことを後悔していた。洋子の親友、それは前いた職場の同僚だった3歳年下の女性だ。名前を景子という。洋子は豊満な感じでいかにも人好きのする笑顔が人なつっこい。開放的な性格だが、だからといって性格はそれでも派手でもなく常識的で主婦業をそつなくこなしていた。子供に恵まれていなかったが、哲夫とはうまくいっていた。哲夫のあまり頓着しない性格が洋子ののびのびした性格にはいごごちがよかったのだろう。洋子は哲夫との夫婦生活がかれこれ12年経過していた。もう40に届く年齢で外見的には年相応といった感じ。景子は町中をあるいていると男女問わずに視線を集める美人だ。端整な面長でつやのある髪を肩を伸ばしいる。30代後半だが一見して20代後半から30代前半に見える。大人のおしとやかな女性といった感じだ。しかし彼女のしぐさには他の人が近づき難いよそよそしさが漂っている。周りの男性も自分には高値の華といった感じで声をかけてこない。彼女の性格はいたってマイペースで天然ボケなところもあって、深く付き合うと親しみやすいところもあるのだが、外見的には神経質な隙のない美人という感じで第一印象はかなり敷居が高く見えてしまう。