自分をごまかさない

ものごとに失敗して落ち込んだときによく「自信を持て」と励まされるものである。このときにことさらに自分を肯定されたりすると、自分は偉いのだと錯覚して周りの人を見下してしまいがちである。私の経験上ではあるが、人というものは、褒められれば優越感を持ち、貶されると劣等感を持ってしまう傾向がある。優越感も劣等感も極端な考えであり正しいとはいい難いと思う。10代のころ、ある雑誌で人口心臓についての特集があったのだが、そこに世界的に著名なアメリカの心臓外科医のコメントが載っていた。かれは自分の成功の秘訣を次のように語っていた。「私の成功の秘訣を教えましょう。それは、優越感も劣等感も持たない、何かのフリをしない、自分をごまかさないことです」と。もう30年近く前に読んだ記事だが、この言葉はリアルに印象に残っていて、たまにフト思い出したりする。この外科医の説によると、失敗の元は優越感と劣等感であり、すなわち自分をごまかすことであると。優越感は周りの人より自分を上に見ることであり、劣等感は自分を下に見ることだ。おかしな話だ。自分は自分でしかないはずである。周りと比較すること自体ナンセンスなのだ。優越感や劣等感で自分をごまかせばごまかすほど、自分自身苦しくなるだけである。確かに能力の別、経験の別、性格の違いはある。それらの違いは当然であってそのことによって人を差別することは大きな間違いである。人にはそれぞれ向き不向きがあり、それぞれの人にとっての相応しい道があるからだ。その自分に相応しい道を努力することが大事であろう。「自分をごまかさない、自分自身に正直であれ」、常にこの言葉を胸に一日一日を生きていきたものだ。