虚空のスキャット

ピンクフロイドの狂気というアルバムに虚空のスキャットという曲がある。ドラムとシンセサイザーとピアノをバックに女性のスキャットがひたすら続くという楽曲なのだが、これが、聴けば聴くほど味わい深く魂をわしづかみされるような体中に戦慄と鳥肌が立つ曲なのである。この曲を始めて聴いたのが24年前だっただろうか、あまりピンとこなかったという第一印象だった。この曲を歌う女性はレコーディングでメンバーから悲しみや苦しみを想像して歌ってくれと頼まれたそうだが、歌った後はうまくいかなったと思っていたらしい。しかしメンバーはあまり出来のすばらしさに感動し、レコーディングは非常に早く終わったそうだ。声というのはもっとも感情や気持ちが伝わるものだろう。歌も究極まで達すると歌詞は意味をなさなくなるのかもしれない。この歌詞のない歌声で十分に気持ちや感情が伝わってきて、涙が落ちそうになるぐらい感極まってくるような曲なのである。